1870年頃、当時の知識人たちの間にひとつの論争があった。それは疾走する馬の脚が、一度に全部地面から離れることがあるか否かというものだ。人間の肉眼ではこれがまったくわからない。そこで写真の出番となり、マイブリッジがこれに挑むことになった。
当時の写真家は、写真機材一式を自ら作る技術者だ。カメラも自分で作り、感材も自分で調合する。マイブリッジは高感度の感材を調合して、走る馬が静止しているかのごとく撮影できるようにした。さらに馬が走るコースに並走してカメラを10数台並べ、コースに細い糸を張ってシャッターと連動させた。馬が走ってこの糸を切断すると、それに合わせて次々にカメラのシャッターが切れる。
こうしてマイブリッジは馬が走る様子を連続写真として撮影することに成功し、馬はどう走るかという長年の論争に決着を付けたのだ。馬は有史以前から人間の身近な動物だったが、マイブリッジが連続写真で撮影するまで誰もその走り方を知らなかった。マイブリッジの発明は、人間の目では決して見えない世界を写真技術によって解明する革命的なものだった。
マイブリッジ自身は映画を発明しようとしたわけではない。だがマイブリッジは自分の連続写真を当時既にあった「絵を動かすオモチャ」と組み合わせることで、「動く写真」を作り出すことに気づいた。こうして生まれたのがゾープラクシスコープという装置だが、これは大きな円盤に配置された連続写真をループさせるというもので、1回転でせいぜい数秒の動画しか生み出すことができない。しかしここではじめて「動く写真」が生み出された意義は大きい。
マイブリッジはその後も自作の写真装置でさまざまな動物を撮影し、やがて人間の動きも撮影するようになった。彼の連続写真は「映画前史」として歴史的な価値があるだけではなく、今でもアニメーターたちの参考資料として現役で使われ続けている。
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