僕はこの映画をリバイバル公開で観た。最初に観たのがいつだったかは忘れたが、高校生の頃だったか、その後の専門学校時代だったか……。銀座のデザイン会社に勤めている時も、銀座和光の裏にあった銀座文化(現在のシネスイッチ)でちょくちょく上映されていたので、機会があれば足を運んだ。僕は結局この映画を、劇場スクリーンで少なくとも2回か3回ぐらいは観ているんじゃないだろうか。
別に名作名画というわけではない。映画としては三流品だと思う。この頃の伝記映画の常で、中身はジョージ・ガーシュウィンの生涯をかなり自由に脚色したものになっている。もっともそれには、やむをえない大人の事情もあった。
ガーシュウィンは晩年にハリウッドで映画の仕事を何本かしているが、それをそのままこの映画の中には使えないのだ。ガーシュウィンが手掛けた『踊らん哉』や『踊る騎士(ナイト)』(どちらも1937年製作)はRKO作品で、遺作となった『華麗なるミュージカル』(1938)はサミュエル・ゴールドウィンの作品。しかしこの『アメリカ交響楽』はワーナー・ブラザースの作品だから、こうした他社の曲は使えない。場面引用や再現も不可能だ。
舞台や映画でガーシュウィン作品に出演していたフレッド・アステアも、この映画には出て来ない。映画には無名時代のガーシュウィンのオフィスでタップをする若い男が出てくるが、この映画のファンは彼を「アステアもどき」と呼んでいる……。
だがそれでも、この映画には見どころがたくさんある。映画が作られた1945年は、ガーシュウィンの死からまだ10年もたっていない。生前のガーシュウィンと親交のあった人たちが、本人役で大勢出演しているのだ。
例えばピアニストのオスカー・レヴァント。ミュージカル映画のファンなら、彼のことを『巴里のアメリカ人』(1951)や『バンド・ワゴン』(1953)などの作品で知っていることだろう。彼はガーシュウィンの理解者であり友人のひとりだったのだが、映画の中にも本人の役で出演し、劇中のピアノはすべて彼が演奏している。
他にも「キング・オブ・ジャズ」と呼ばれたポール・ホワイトマン。ブロードウェイの大プロデューサーだったジョージ・ホワイト。「ポーギーとベス」の舞台を再現した場面では、初演でベスを演じたアン・ブラウン自身が「サマータイム」を歌っている。そしてアル・ジョルスンが出演している。
この当時のアル・ジョルスンは往年の大スターで懐メロ歌手だった。しかしワーナー映画でスターになったジョルスンが、ワーナー製作の映画に本人役で出演し、黒塗りの顔で「スワニー」を歌うのだ。「スワニー」はガーシュウィンが世に出るきっかけを作った最初の大ヒット曲で、この場面は映画の中でも一番の見どころだと思う。僕はこの場面を観るたびにいつだってワクワクしてしまうのだ。
アル・ジョルスンはこの翌年に伝記映画『ジョルスン物語』が製作されて大ヒットし、懐メロ歌手から売れっ子の座に返り咲く。ひょっとしたら、『アメリカ交響楽』はそのきっかけを作った映画なのかもしれない。
ガーシュウィンの伝記映画はその後、よりリアルで実話に近いものを作るという企画が何度も持ち上がってはポシャっているらしい。でも誰がどんなに工夫をしても、たぶんもう『アメリカ交響楽』以上のガーシュウィン伝は作れないんじゃないだろうか。だって今から誰がどんな映画を作っても、そこにはオスカー・レヴァントもアル・ジョルスンもいないわけだしね……。
この映画は確かに内容的にはデタラメだが、ガーシュウィンと同じ時代を生き、ガーシュウィンと共に舞台や映画を作っていた人たちが、自分たちの生きた時代を再現しているという意味でとても価値があると思う。
『アメリカ交響楽』は版権が切れていることもあり、日本でも廉価版のDVDが何種類か販売されている。アメリカではワーナーから正規版が出ているんだけどなぁ。……というわけで、僕は今回この機会に、アメリカ版を購入することにした。アマゾンで並行輸入業者に発注したので、数週間以内に配達されてくると思う。
アメリカのAmazonの商品説明ではリージョンオールになっていたけど、さて実際のところはどうなんだかなぁ。もっとも我が家にはハワイで買ってきたアメリカ仕様のDVDプレイヤーがあるので、リージョン違いでも問題はないんだけどね。
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