これは2本の紐を取り付けた厚紙の表裏に、異なった絵が印刷されているもの。紐を両手に持ってヨリをかけクルクル回すと、表裏に書かれている絵がひとつに見えるのだ。表に鳥かご、裏に鳥の絵が描かれていれば、クルクル回すことで鳥が鳥かごの中に入る。馬と騎手が別々に描かれていても、クルクル回せば馬に乗った人になる。
この玩具を誰が発明したのかが、じつは良くわかっていない。Wikipediaにはイギリス人医師のJohn Ayrton Paris、天文学者ジョン・ハーシェル、地質学者William Henry Fitton、あるいはチャールズ・バベッジといった名前が出ているが、おそらくこの仕組み自体は彼らよりずっと以前から知られていただろう。いずれにせよ簡単な仕組みの玩具なので、単純な絵であれば手作りすることも可能だ。
(YouTubeの動画だと絵の連続はギクシャクしたものになるが、実物を目で見るともっと滑らかに絵がつながるのがわかると思う。動画は連続した絵を細かな静止画に分けて記録しているので、回転速度によっては表裏の絵がうまく交互に見えないのだ。)
この玩具は人間の目の「残像現象」を利用している。人間の目は信号を遮断されても、その直前に見えていた画像を見えているものとして知覚している。少なくとも短時間の画像の中断をあまり気にしない、大らかで大ざっぱな仕組みになっているのだ。
これが人間の目や神経の生理的な反応によるものなのか、人間の脳がそのように反応しているのかは学者によっても意見が分かれるようだが、僕は「その両方なんじゃないの?」と思っている。人間の神経系の働きは電気信号と化学反応の組み合わせなので、スイッチを入れて電球が光るような感度の良さは持ち合わせていない。いずれにせよ多少のタイムラグは起きるわけで、それを超える動きは目で追いきれなくなってしまう。
それ以上に重要なのは脳の働きだ。人間の脳は数分の1秒ぐらいなら、視覚信号の中断を自然に無視するようになっている。おそらくそうしている理由は、人間がまばたきをしているからだと思う。人間は毎日数え切れないほどのまばたきをしているのだが、それが気になったら生活できない。
まばたきとまばたきの間が何秒なのかは知らないが、人がまばたきをする前と、まばたきを終えて目を開くまでの間には、必ず数分の1秒の視覚刺激の中断があるはずだ。でも人間の脳はその中断を無視して、まばたき前後の視覚情報を頭の中で自動的につなげてしまう。
人間の目は現実そのものを観ているわけではない。目から入ってくる刺激はまばたきによって数秒ごとに寸断されているのだが、人間はそれをひとつながりの情報として処理するようになっている。
ソーマトロープはアニメーションや映画のルーツのひとつと言われているが、ここにはまだ「動き」はない。細かな静止画の連続を「動き」として知覚するためには、残像現象ではない別の要素が必要になるのだが、それはまた次回。
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