2015年3月16日月曜日

アニメーションの元祖フェナキストスコープ

 厚紙に紐を付けてクルクル回すだけのソーマトロープの後に、本格的なアニメーションを実現する玩具が登場する。それがフェナキストスコープだ。

 これは真ん中に穴のあいた円盤に何本かスリット状の穴があけてあって、スリットとスリットの間に少しずつ違う柄の絵が描いてある。この円盤を専用の棒に取り付けてクルクルと回転させれば、あら不思議、描いてある絵が動いて見えるのだ。

 ただしこの時、ただ回転する円盤を眺めているだけでは絵が動かない。円盤の絵柄を鏡に向けて、自分は円盤に付いているスリット越しに、鏡に映っている絵を眺めるのだ。

 フェナキストスコープは日本語で「驚き盤」とも呼ばれるが、たった1枚の円盤で描かれた絵が動いて見えるのは、まさに驚きの体験だ。しかしこれはなぜ動いて見えるのだろうか?

 円盤を回すと、スリットが目の前に来た一瞬だけ鏡に映った絵が見える。しかしそれはすぐに円盤に遮られて見えなくなり、次のスリットが目の前に来た時にはまた一瞬だけ次の絵が見える。しかしそれはまたすぐに遮られて……という繰り返し。


 円盤に等間隔にあけられたスリットが、目の前で、開く→閉じる→開く→閉じるを繰り返す。それに合わせてスリットの向こう側にある絵も、スリット1つ分ずつ移動して次の絵に変わっていく。こうして穴のあいた円盤が、動画再生に必要な間欠運動を実現しているのだ。

 フェナキストスコープはベルギーの科学者ジョセフ・プラトー(1801〜1883)が1831年に発明したと言われている。同時期にオーストリアのサイモン・フォン・スタンプファー(1792〜1864)も同じような装置を発明したそうだ。

 フェナキストスコープを解説した画像を見ると、同一の軸状に2枚の円盤をセットしたものもみつかる。これはヘリオシネグラフという装置なのだが、仕組みとしては鏡に映すフェナキストスコープと同じだ。鏡が身近にあるなら円盤が1枚で済むフェナキストスコープの方が単純だと思うが、大量生産の工業製品として考えた場合は、円盤を2枚使う方が有利だったのかも知れない。

 おそらく工業品として作った場合、一番手間がかかるのは円盤に細いスリットをあける工程なのだ。1枚の円盤に絵とスリットがあるものは、絵を描いた円盤に全部スリットを作らなければならない。学校の実習教材などで円盤をひとつだけ作るならそれでもいいだろうが、工業製品として量産するとなればどうだろう?

 円盤を2枚使うヘリオシネグラフは、スリットの付いた円盤は装置に取り付けたまま、絵の描かれた円盤だけを交換して楽しんだのだろう。絵は印刷すればいいわけだし、円盤の中心に穴をひとつあけるだけならたいした手間ではない。

 フェナキストスコープは単純な装置なので、厚紙を使って自作することができる。作るなら円盤1枚を鏡に映すタイプが簡単だ。この程度のものでも、自分で作ってみるといろいろなことがわかって面白い。

 まず鮮明な動画を得るためには、スリットの幅は狭い方がいい。スリットの幅が狭いほど、その向こう側の絵はシャープに静止して見える。しかしスリットが狭くなるというのは、カメラで言えばシャッタースピードが速くなるのと同じで、見える絵は暗くなる。暗くなれば鮮明さはなくなるので、このあたりのバランスを考えなければならない。

 もうひとつ大事なのは、円盤の絵が描かれていない方(接眼側)を黒く塗りつぶしておくこと。円盤をボール紙で作るなら、片側には黒の画用紙などをピッタリ貼り付けるとか、絵の具やマジックで塗りつぶすとかしておかなければならない。

 人間の目は対照の明るさに合わせて瞳の大きさを変え、自動的に光量を調節する。円盤の接眼側が白いとそれに合わせて瞳の大きさが調節されてしまうため、スリットの向こうは暗くなって何も見えなくなってしまう。目の前で円盤を回転させても、目に見えるのは回転する円盤のこちら側だけになってしまうのだ。(上の写真にあるヘリオシネグラフでも、スリットがある側の円盤が黒くなっているのがわかる。)

 スリットの数は理屈の上では多ければ多いほどいいはずだが、あまり大きくなると円盤自体を大きくしなければならない。手作り工作ならスリットは10〜12ぐらいで十分だと思う。分度器で等間隔に分割するなら、10、12、15ぐらいがキリがいいのかも……。

 スリットの位置は円盤のどこにあってもいい。学校の工作などで作るなら、円盤の円周上から切り込みを入れるようにしてスリットを作った方が、ハサミで作業できて楽だと思う。商品化されているフェナキストスコープやヘリオシネグラフでディスクの内周に穴があけられているのは、その方が円盤が丈夫で長持ちするからだと思う。円周上に切れ込みを作ると、そこから曲がったり破れたりしそうだ。

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