2015年3月6日金曜日

リュミエール兄弟は劇映画の元祖だった

 映画史では一般的に、リュミエール兄弟の作品はドキュメンタリーの元祖で、メリエスの作品は劇映画の元祖だと言われる。

 だがリュミエール兄弟の作品の多くは、純粋なドキュメンタリーというわけではない。日常を切り取ったスケッチ風の作品も確かにあるが、あらかじめ映画の撮影時間を計算し、入念に準備した上で撮影している劇映画も多いのだ。

 有名な作品のひとつに「水をかけられた撒水夫」がある。ホースで庭に水を撒く男を見かけた少年が、ホースを踏みつけて水を止めてしまう。不思議に思った男がホースをのぞき込むと少年はパッと足をどけ、水を撒いていた男は水浸しになってしまう……。


 こんなものは当然だが偶然に撮れるはずがないのであって、明らかに演出された喜劇なのだ。この作品は人気があったようで、シネマトグラフのポスターにもこの作品が描かれている。

 またこの作品は何度もリメイクされているため、どれが最初に撮られたオリジナルなのかが良くわからない。なぜリメイクされるのかと言えば、当時はプリントを複写する手間も、屋外で同じような場面を撮影し直す手間も、あまり変わらなかったからだ。同じように、リュミエール最初の作品として有名な「列車の到着」や「工場の出口」も何度もリメイクされ、どれが最初の上映会で使用されたバージョンなのかがわからない。これ自体が今や、映画史のミステリーになっている。

 「水をかけられた撒水夫」は演出があからさまなのだが、一見演出に見えないけれど、じつな入念に演出されているという作品がリュミエール作品には多い。当時のシネマトグラフはカメラの中に30秒か1分程度のフィルムしか入れられない。やり直しなしの一発撮りで、この30秒〜1分の中に必要なすべてを入れてしまわなければならない。

 例えば「工場の出口」のあるバージョンでは、工場の門扉が開き、工員たちが出てきて、門扉が閉まるまでがピッタリひとつのカットに中に納められていたりする。こんなものは撮影しながら、「はい扉を開いて!」「どんどん出てきて!」「はい、扉閉める!」などと指示を出している様子が目に浮かぶようではないか。


 僕が好きな作品に「雪合戦」がある。これは画面の左右で二手に分かれた男女が雪玉をぶつけ合っていると、道の向こうから自転車に乗った男が現れて雪合戦に巻き込まれ、カメラの前で自転車から転がり落ちる。男はあわてて自転車を起こし、身体をすくめながらもと来た道を引き返していく……という作品だ。


 男が自転車から転げ落ちる位置とタイミングは、まさに入念に計算されつくしている。この位置があと2メートルも前か後ろにずれれば、この作品は成立しなくなってしまうのだ。

 リュミエール兄弟の初期の映画には、1分という短い時間の中で何をどう描くかというアイデアが詰め込まれている。ショート動画でいかに人々の耳目を集めるかに心血を注いでいるという意味で、リュミエール兄弟はユーチューバーの元祖みたいな人だったのかもしれない。

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